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メッセージをどう受け取るか - ミュージカル『ニュージーズ』感想

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日生劇場・ニュージーズの看板 LES役の表示看板上演時間の看板

2018年3月の3LDKイベント、TIME3LIPで植原さんが訳詞したSeize the Dayを聴いたときからずっと観たかった作品。温かいご縁あって観劇できました、NEWSIES OF TOKYO!多謝!

 

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TIME3LIP当時、日本上演の気配なんてまったくなかったNEWSIES。あれから3年半、Snow ManにハマりSixTONESにもまあまあ詳しくなり、まさか京本さん主演で目にすることになろうとは…。

 

 

あらすじ

今を懸命に生きる新聞販売少年たちニュージーズの夢、葛藤、決意が詰まった感動のストーリー

1899年、夏。ニューヨーク。少年・ジャック(京本大我)は、足の不自由な友人クラッチー(松岡広大)と他の孤児やホームレスの新聞販売少年たち“ニュージーズ”と共に暮らし、毎日新聞を売って生活している。ジャックは、いつかニューヨークを出てサンタフェへ行くという夢を抱いているが、現実はその日暮らし。

ある日、ジャックはデイヴィ(加藤清史郎)とその弟レス(ポピエル マレック 健太朗※日替わり)と出会う。デイヴィとレスは他のニュージーズと異なり、家と家族があるが、父親の失業という事情があってニュージーズに加わったばかり。ジャックは幼いレスを使えば、より多くの新聞を売ることができると考え、協力することにする。その頃、「ワールド」紙のオーナーであるピュリツァー(松平健)は他社より儲けようと、販売価格は据え置きでニュージーズへの新聞卸値を引き上げることを企てていた。

デイヴィとレスと行動を共にするジャックだが、過去の出来事を理由に感化院のスナイダーに追いかけられてしまう。三人が逃げ込んだメッダ(霧矢大夢)の劇場では、その日も素晴らしいショーが繰り広げられる。 翌朝、新聞100部あたり50セントの卸値が、60セントに値上がりしていることを知ったジャックは、自分たちの生活と権利を守るべく、ニュージーズを率いストライキを決行。新聞記者キャサリン(咲妃みゆ)はジャックの姿に心を動かされ、ストライキを追いかけ取材することを決意する。

勝つのは権力者ピュリツァーか、それとも若きニュージーズか。今を懸命に生きる少年たちの未来に待っているものとは——

(公式HPより引用)

 

映画からの改変:キャサリンの存在感

ヒロインはミュージカル版のオリジナル。映画版では、そもそもニュージーズのストライキを一面トップに取り上げる新聞記者は男性だし、ジャックと恋仲になるのはディヴィの姉のサラ。この2人のキャラクターを足し合わせたのがキャサリンで、しかもワールド紙のオーナーピュリツァーの娘でもあるという盛れるだけ盛ってしまえと言わんばかりの追加設定にはおどろき。

正直権力者の娘であることが物語上そこまで効いているようには思えなかったけど、身分違いの恋はラブストーリーの定番だし、ヒロインの裏切り(※裏切ってない)がラブ進展のアクセントになるのは理解できる。ピュリツァーの実の娘に対する愛情と、「誰かの子」であるはずのニュージーズに対する態度の差も見せられるし。天涯孤独のジャックが家族愛に満ち満ちたサラに惹かれていく映画版のほうが好きだけど。

ただ、そんな個人的な好みなどぶっ飛ばすようなキャサリンのパワフルさ、あの時代にあって女性でも自分の道を切り開こうとする姿には説得力があり、かなり今の時代を意識したアレンジに感じた。映画公開が1992年、BW版が2012年と20年の期間があること、かつディズニー作品であることを思えば妥当っぽい。

 

はじめまして、京本さん!

初めてこの目で京本さんを見ました、貧しい暮らしの中でも明るく賢く生き抜く姿、お似合いでした。美しすぎる気はしたが。  芝居がかったような起伏のはっきりした喋り方と人を食ったような態度も、ジャックのリーダーシップとしたたかさの両方を感じさせて良い。クラッチと二人きりで話すときとニュージーズの代表然としているときとで声色が違うような気がしたのも印象深い。

わかっちゃいたけど、京本さんはとにかく歌唱がよく。劇場の力があるとしても、厚い声が2階席後方まで届いてくる安定感はさすがでした。「モーツァルト!」を筆頭に、とにかく王道ミュージカル路線を期待したくなる。

これは蛇足だけど、京本さんは歌唱だけで聴かせるパワーが十分にあるし、わたしは削ぎ落とされた演出のほうが好みなので、Santa Feでステージが高く高くせり上がる演出は苦しかった……面白さに涙が引っ込んでしまった……転換中に「ウィーン……」と響く機械音……ロミジュリ「どうやって伝えよう」の思い出アルバムスライド投影が思い出されてしまって……。京本さんの問題ではなく細かいところでイケコと趣味が合わないわたしが悪いのだ……つらい……。

カーテンコールのサービスも盛り沢山で、アクロバットするか……!?やりそう……できるの……!?いややらんのか~~~い!!!の流れ(テニミュで大石役の子がよくやるやつ)と、MJのムーンウォークまで見せてくれました、キュート。ありがとう座長!

若き帝王、広大先輩

広大先輩、全然年下なのに広大先輩と呼んでしまう。クラッチはもっと真面目なヤツだった気がするけどそれはディヴィと混同しているだけかもというくらい映画版での印象が薄かったので驚いた。

一つか二つネジでも外れているかような振る舞いでひょうきんにおどけてみせながら、奥底に隠したギラついた怒りを台詞もなしに滲ませてしまう表現力に舌を巻く。松葉杖をついていてなお輝くダンススキル。連れ去られる場面での叫喚は言わずもがな、2幕の見せ場、ジャックへ宛てる手紙のシーンには感服。

広大先輩、サービス精神旺盛な一方カーテンコールはクールで素っ気ないところも好きですね。今になって広大先輩のスリルミー観に行かなかった後悔がバカでかくなってしまった。

ニュージーズたち

オレンジ髪のフィンチを演じた新原くんも前評判通りダンスが美しくてよかったし、なんでもできるでおなじみ石川新太くんがお兄ちゃん的ポジションにいたことにもしみじみ。デイヴィもその器用さがよく出てたように思う。トニー賞のパフォーマンスで見て楽しみにしていた群舞も見ごたえ十分で満足!デイヴィ&レス兄弟の「家族がいる」ことの異質さはもう少し描いてもよかったのでは、サラのキャラクターがキャサリンになったことで省かれたんだろうけど。

 

雑感

社会問題を描いたフィクションと現実世界をどれだけ地続きのものとして捉えるべきか、鑑賞者としてどう向き合うべきなのかという栓ないことを考え始めてしばらく経つけど、解決の兆しは見えないどころか問いは深まるばかりである…。今年の作品だと「パレード」「アリージャンス」「レ・ミゼラブル」に続いてニュージーズも社会性を備えた作品だったはずで、それをどれだけ受け取れているのだろうか、また上演する側もどれだけ意識して製作にあたっているのだろうか?などと考え込む。っていうか社会から切り離された作品などないが。

今作でいえば、アラン・メンケンの楽曲や俳優達の躍動するダンスに注目が集まるのは自然なことだし、わたしもそれを楽しみに劇場に足を運んでるしもうこの話は終了ですという気がしなくもない。

でも、ニュージーズ達の姿から、例えばUberEats配達員の労働環境について連想できるかどうかや、背景として日本の労働組合が弱体化していること、非正規労働者はほとんど加入できていないこと、そういう、自分の近くで、あるいは自分自身が置かれている状況を把握しているかどうかによって作品の見え方が大きく変わってくるんじゃないかと思う。

なんでもかんでも啓発事業の一環みたいになるのはわたしも嫌だし、エンタメだけに振り切るような作品ももちろん最高だけれども、作品をより深く味わってもらう手助けとして、作り手がいまの社会をどういうふうに捉えているのかを提示するような取り組みがもう少し活発になってもいいんじゃないかな~などと思う。

まあ、パンフレットでそのへん触れてあるのかもしれないけど…現金の手持ちが足りず買えなかったので…愚かである…。

 

おまけ

ニュージーズっぽいコーデにしたかったけど、難易度が高かったためNYに生きるミュージカルの登場人物がみんな行きたがるSanta Fe風の着物にした。

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冷静になって見るとWelcome to the Jungle!/って感じね。

 

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NEWSIES、いい作品でした。再演が楽しみです。サントラかBlu-ray出して~!