金融 x 演劇、意外なペアリング - 『hedge 1-2-3』感想
主演の原くんがいいよ!との口コミを見かけてギリギリ滑り込んだ『hedge/insider』。原くんの主演のきらめきが…というよりは群像劇のような印象を受け、その点に限っては拍子抜けしたものの、演出と構成のおもしろさに惹かれ、かつ群像劇でも原くんはまちがいなくよく、また2幕「insider」のショッキングな終わり方からこれは続きを見ねばならん!と帰りの電車で続編『trust-hedge3-』のチケットを取ったが、こちらはやや期待はずれであった。残念。
『hedge/insider』が7/13、『trust-hedge3-』が7/16。
安定のナタリーさま。OGPのシーンがマジで最高だったんだよな~ 金融ものの芝居でマイク持ってることがもうおかしい。好き。
岡田さんが話されてる下記がまさに、という内容でした。
>金融がベースではあるんですけど、僕の印象では青春群像劇のようにもとれるお話だなと思いました。
あらすじ
経済から日本を描く金融エンターテインメント。
資本主義の光と影を2作品構成の15人の群像劇として連続上演!
2013年、日本初の本格的経済演劇として、企業再生ファンドであるバイアウトファンドを題材とした「hedge」を上演。2016年バイアウトファンド創設メンバーでもあるエリート社員が行ったインサイダー取引と、それを巡る査察。息詰まる攻防を描いた続編「insider-hedge2-」を上演。
そして 2021年、上記2作品を大幅にリライトの上、2幕構成の作品へと凝縮した『hedge/insider』として再構築、そこにインサイダー取引で失墜した信用を取り戻すべく金融マンたちが奔走する新作「trust-hedge3-」を加え、総合タイトルを「hedge 1-2-3(ヘッジ ワン・トゥー・スリー)」として連続上演する。経済とは切り離せない社会を生きるわたしたちに、経済の暗部と光、両方から経済を物語のかたちにして、届ける意欲的連続上演です。(公式HPより)
『hedge/insider』1幕
バイアウトファンド「マチュリティーパートナーズ」の創設と、その初号ファンドとして選ばれたクレーンメーカー「株式会社カイト」が回復を遂げていくまでの群像劇。陰謀渦巻くドロドロした金融世界を描くのかしらと思いきや、「空飛ぶタイヤ」や「下町ロケット」的なお仕事ドラマがイメージに近い。
カイトの面々は、経営手腕に欠けるものの人望ある代表の海渡(岡田達也)や、経営改善のためマチュリティから派遣されてきた金融業界の"エリート"たちを受け入れられない様子を見せる熱血漢タイプの営業部長本宮(根津茂尚)、はっきりとマチュリティを疎んじる態度をみせるヤな感じの製造部社員野々宮(藤尾勘太郎)、くすぶりっていたもののマチュリティからきたインターン谷川(原嘉孝)に感化され成長を遂げる城嶋(池村匡紀)、会社の足を引っ張る倉庫部門の責任者山元(今奈良孝行)。
カイトが経営改善を果たしていく話そのものへの目新しさは正直ない。経営不振の窮地を救うのが一蓮托生の運命となるバイアウトファンドである以外は、見覚えのある池井戸的なお仕事ドラマ展開。トラブルが起こりながらも前に進む、明るい未来が待っている。プロジェクトは成功する。そんなあれもこれも順調に進みます…?と思わなくもない。でもそこがよかった。
金融業界の端っこで仕事をしながらしかしなかなかうまく事は運ばずこの仕事に価値があるとも思えず、「もしかして、金融って、クソなのでは…!?」と思う瞬間はそこそこある。結構ある。ので、「金融」の可能性を信じることに決めて、「バイアウトファンド」なんてわざわざ大変な道を選んで、ちゃんと成果を出すマチュリティの面々はだいぶ眩しかったし、事業会社としてドン底にある中最後の望みとしてマチュリティを受け入れ、反発したり恥ずかしい思いをしたり喧嘩したりしながらも、自分の仕事に誇りを持ち続けるカイトの人たちもかっこよかった。自分は仕事にそういうふうに向き合えていないので。
いい話すぎると思う、でも、金融が本当にこうだったらいいよね、と思わずにはいられない魅力がある。
だがしかし私はそもそも資本主義社会ぶっ壊すべしと思っているので、その根源に近い仕組みを生み出している金融というシステムを手放しに「カッケーじゃん万歳!」とはいいきれない。金融、クソだと思うけどロマンはあるよね。
1幕後の感想。ロマンを感じたセリフややりとりはスレッドに長く書いてある。キンキーブーツだな、と思った瞬間のことも。
hedge1-2-3、たしかに期待はしておりましたが想像以上でしたね…。幕間です。原くん主演!ど真ん中!というよりは群像劇。資本主義がベストとはやっぱり思わないけど、金融にはロマンがあるね。 pic.twitter.com/we6ykzBnz8
— しゃこ🎻🎾 (@ue_tk622) 2021年7月13日
突然歌い出す原嘉孝は最高に決まってる
歌の前にオープニングがよかった話をしておきたい。役者が役者として私服風衣装で舞台にあがり、「金融マジわかんね~!」的な雑談をする中、高いところから現れ、さながら億男で藤原竜也が演じた「夢叶えようぜセミナー」主宰者のように語りかける原嘉孝。よい。「俺は選ばれた特別な人間なので…」というオーラを出しつつも嫌味がないのはなぜ。
開幕を宣言したのち、生演奏でデカい音が鳴る中、服を脱ぎ捨て舞台上でパンツ一丁になりスーツに着替える男たち。こういうメタ表現、無条件にときめきがち。
1幕序盤、ちょこちょこ金融用語の解説をしてくれていたんだが、劇の流れをぶった切り解説パートに飽きてきたよ~と思ったところで、マイクを手に解説ソングを歌い出す原嘉孝が見られた時点でチケット代の元は取ったし、原をセンターから押しやりスタンドマイクでロックスターかのような歌いっぷりを見せる吉田栄作さんが見られたので満足でした
hedge 1-2-3、円盤化は予定してるのかな〜 とりあえずあのロング&ショートの曲配信リリースしてくれませんかね スタンドマイクで歌う吉田さんがめちゃめちゃイケてたのでまた見たい 「センキュ〜あうるすぽっと!」がお茶目でかわいかった 原くん、手持ちマイクが似合うね
— しゃこ🎻🎾 (@ue_tk622) 2021年7月14日
原くん、本人の輝きもそりゃ見ものなのですが、原くんasインターン谷川くん(超実力者)の有能かつ人たらしぶりが抜きん出ていた。谷川くんが魅力的なのは言うまでもなく、谷川と関わった男達がみな谷川に惚れ込むだけでなく、自分の人生を自分の責任で歩き出すさまがあまりに見事で涙が出た
— しゃこ🎻🎾 (@ue_tk622) 2021年7月13日
はァ~~~マチュリティーパートナーズが誇るローラ、谷川悠太郎。一緒に働くと大変そうなので弊社には来ないでいただきたいが。
国分さん(酒巻誉洋)めっちゃ好き
マチュリティパートナーズ社員国分哲也、あまりに優秀すぎて恋した。結婚して。もしくは弊社に来て。銀行に入社しておきながら、融資部門ではなく運用担当というのもまた痺れる経歴。好き~!
hedgeの推し、国分さんです ああ国分さん 職場にいてほしいです 一緒に働かせてくださいあなたに尽くしますと思ってみていたのに、彼が二児の父であることが明かされたときショックを受けている自分がおった えっ 国分さん 既婚者だったんですか 独身じゃなかったの? え?なに? 恋だったの?
— しゃこ🎻🎾 (@ue_tk622) 2021年7月13日
国分さんこの人です!!!ってRTしようと思ったのに酒巻さんas国分さんのメディア欄植物ばかりで そんなところもああ好きです国分さん 「ハンドリングとかやめましょうよ」も ヒアリングの鬼なところもよかった〜 よすぎていた… マジで好き
— しゃこ🎻🎾 (@ue_tk622) 2021年7月13日
『hedge/insider』2幕
「insider」パート。タイトルから連想されるとおりの内容。そもそも、ハッピーエンド!カイトもうまくいきそうだしよかったね~というムードの中、「証券取引等監視委員会」がマチュリティーパートナーズに突然現れたところで1幕が終わっており、この構成にグッと掴まれたところはだいぶある。
原くんの歌を筆頭にゆるく見られるシーンも多々あった1幕とはまるで別作品のような緊張感がずっと維持する1幕。マチュリティーパートナーズそれぞれの尋問シーンがメインで、合間合間に社員同士の会話が混ざる。
誰がインサイダーの犯人かはわからないまま尋問が続き、最後残されたマチュリティーパートナーズの発起人である加治が自白。彼に声をかけられたのがきっかけだった谷川や他メンバーもショックを受けつつも顧客への挨拶まわりに出たが、翌日当局を訪れるはずだった加治の姿は見えず、マチュリティーパートナーズに当局から加治が自殺した旨が伝えられる。終幕。
全員芝居がうまいので、絵面がほぼ変わらないかつ重たい尋問が続く2幕の緊張感がずっと持続していてすごく疲れた…。見応えのある2幕。国分さんのことはどんどん好きになっていった記憶がある。確か加治がインサイダーに手を出した理由は「お金がほしかったから」。やはり資本主義滅ぼすべしとの思いは強まったが、決して後味がよいとはいえない心持ちに耐えられず続編『trust』のチケットを取った。
『trust-hedge3-』
休憩なし140分。フェアトレードに挑む大手商社出身の女性たち「フェア・コピ」と、落ち目のPHSをなんとか立ち直そうとする「ナイスコール」がメイン。フェアコピに茂木(吉田栄作)・片桐(佐野功)が、ナイスコールに井戸田(浅野雅博)国分・谷川が入る。
前編で男性たちが行った舞台上生着替えのパフォーマンスをフェアコピの女性たちが行っていたのが胸熱。たしかブラジャーも取ってたような。かっこよかった。
でも、それ以外はほとんど退屈だった。2021年に扱う題材がフェアトレードというのはあまりにも手垢がついていて今更かと思わずにはいられないし、扱う視点にも驚きはほとんどなくて説教くささが拭えない。旦那と別れを選んだ女性と代表を務める女性のフェミニズムに踏み込んだ描写はよかったけど、話の文量がフェアトレードの啓蒙に割かれすぎてて印象は薄い。
PHSの時代が終わることを知っている状態で見るナイスコールの奮闘は見てて痛々しい。しかしそれよりも、PHSが終わると予見しながら騙し騙し株価を上げなんとか売りぬかなければならないマチュリティーパートナーズの立場にミクロに心を寄せるよりも、どんなに美しく正しい理想を掲げていても、いつの間にか資本主義のシステムに絡め取られてしまうのだな…と絶望を深くした。
「そうじゃない」と示すために、ソーシャルグッドな事業にだけ投資して持続可能な成長尾サポートしようと主張する茂木のプランの提示があり、それをもって幕を閉じるのは確かに美しいが、金融とはいえ一民間企業にできることには限界はあると思うし、ちょっと理想主義に過ぎるよう感じて覚めてしまった。
劇中、ナイスコールの立て直しに意気込む谷川の前に、死んだ加治を演じていた俳優が彼を強請りにくるFXに溺れた新聞記者として出てきた演出はよかった。
加治さんのスタイルが正しかったと証明するために彼をなぞるような痛々しいまでに身を削る谷川、喪失感を湛えたまま金融に疑いを持つ井戸田、なにかあるはずと探し続ける茂木と加治への向き合い方が三者三様なのよかったな 国分と片桐がぶれを見せずにまっすぐ立っていたのもいい
— しゃこ🎻🎾 (@ue_tk622) 2021年7月16日
谷川がアサインされたプロジェクトでしょうもないインサイダーが起きるのもニクイし、「ただお金がほしいだけ」とそのネタで揺すりにくるFX狂いの週刊誌記者を演じるのが加治役の俳優だったの、最高演出すぎて鳥肌が立った 記者の顔を見た谷川がお目々まん丸にして「加治さん…?」て呟くの良かったな
— しゃこ🎻🎾 (@ue_tk622) 2021年7月16日
あの記者と加治のつながりをどう捉えるべきかなあ…。
— しゃこ🎻🎾 (@ue_tk622) 2021年7月16日
その後、揺すりに応じた谷川が経営会議で親友の犯行に落ち込む岡田達也as市村に「仕事するしかないじゃないですか!」て2回も言い放つところ、ぞくぞく 谷川〜そうだったんだね 2年間悲しむこともできず 仕事するしかなかったんだなあ すげーよ
人間の手で生み出された金融がいつしか手の届かないところで黙々と動き続けている、加治の件でそれに立ち向かおうとしたり疑ったりとそれぞれ試みてみたものの結局加治が勝手に金融を裏切っただけで「金融」は何も変わっていない、人間は金融の新しい可能性を探ることができるんじゃないか、という話
— しゃこ🎻🎾 (@ue_tk622) 2021年7月16日
それだけだとぼやっとしちゃうところ、儲けの出ない「フェアトレード」に取り組もうとする成宮たちがいたことで何が言いたいのかかなり明確にしてるんだな、なるほどと思いました ジェンダーにも触れることで公正さとは?に余計意識が向くようになっていた
— しゃこ🎻🎾 (@ue_tk622) 2021年7月16日
もう一つの舞台が2021年すでに終わった技術であることが誰の目にも明らかなPHSだったことも効いてたな 衰退が見えててもファンド組成してる以上無理矢理売り抜かなきゃいけない金融の汚さを描きつつ、俺たち金融もこれまでのやり方を捨てて新しい方向を模索せねばではとの内省につながるという
— しゃこ🎻🎾 (@ue_tk622) 2021年7月16日
このシーン、インサイダーやらかした楢原の処遇(減俸&田舎の支店への異動)を発表したところでキレる楢原の親友の市村に、国分さんが「楢原さんの命を守らないといけませんので」て淡々と言い放つの、ほんと〜〜〜に好きだった わたしはとにかく国分さんが好きhttps://t.co/nfT46cHyKP
— しゃこ🎻🎾 (@ue_tk622) 2021年7月16日
ちょこちょこNFMな部分はあった ジェンダーの話はイマイチ煮え切らなかったり、木ノ内さんが成宮さんの理想を「なんで男の基準で目標引いちゃうんですか?」と問うけどその問いのバイアスの掛り方なんなんだよと思ったり、全体の流れからすると男に気づきを与えるための女たちになってたりとか。
— しゃこ🎻🎾 (@ue_tk622) 2021年7月16日
うーんと思うところがないわけじゃないけど、カンパニーのやりたいこと、作家のメッセージはよく伝わってきた。面白かったです。国分さんメインのスピンオフをください。