「真実の愛」として描かれるシスターフッド - 劇団四季ミュージカル「アナと雪の女王」感想
ミュージカル『アナと雪の女王』作品紹介 | 劇団四季【公式サイト】
ありがたくも友人がチケットを確保してくれ、見てまいりました劇団四季版アナ雪!文句の付け所がない~~!最高でした!多謝!
たしかもうすぐNYの劇場もオープンするはず。行きたいな。
あらすじ・構成・楽曲・衣装・セットなどなど、記憶どおり(といっても忘れている部分も多かったけど…)で懐かしんだり、寸分違わぬ瞬間で涙が流れる自分に気づいて一人で笑いそうになったり。楽しかった!
Let it go、単独で歌われるたび「この物語は"ありのままの自分でいい"と無条件で肯定しているわけじゃないのに…!!!!!」と地団駄を踏んでしまう曲なのだが、とにかく美しい歌声と衣装、きらびやかな装飾とド派手な舞台演出に嫌でも涙が出てきてしまう(※全然嫌じゃない)。物語の主題ではないとはやっぱり思うけど、これまで数年間に渡り抑圧され続けてきたエルサの半生を思えば、あれくらい強く自分のことを認めてあげられるのってすごいパワーだな、と思って更に泣いた。主題じゃないけどいい曲だな。主題じゃないけど。
エルサとアナの両親が事故で亡くなり、エルサが成人し戴冠式を迎えるまでの数年間、王不在であるアレンデール王国の統治は一体どのように行われていたんだろう、宰相は不在なの?他国との外交はだれが?いくら緊急事態とはいえぽっと出のハンス王子があそこまでの存在感を発揮できるなんて国の行政はどうなっていたんでしょうか組織図を見せてほしいな!とつっこみたくなっちゃうけどそんなことは野暮。
「真実の愛」はあなたの中に
氷の宮殿でエルサから拒絶され心を凍らされたアナは、「真実の愛のキス」を求めてハンス王子、クリストフを探しにいくがそのどちらも「真実の愛」ではない。戴冠式でエルサがお城を飛び出したときから、いやもしかしたらもっと幼い頃から、アナがエルサを助け力になろうとしたその思いと行動こそが「真実の愛」であった…って、まるで昔絵本で読んだ「幸せの青い鳥」みたいだ。
初対面でハンスと結婚を決め「真実の愛なの、私にはわかる!」と浮かれるアナに「愛のなにがわかる?」と問うクリストフ、「そっちこそなにがわかるのよ!」とムキになるアナ。ミュージカルオリジナルのこの曲、タイトルも歌詞もまっすぐでメロディもいい。クリストフもアナも、説明できる「愛」の定義は持っていないのに、作中で「真実の愛」とされる行為を何の疑いもなく行える清廉さが美しい。
弱ったアナは、暖炉の前でハンスにキスをねだる。それは愛を与えてもらおうとする態度だが、アナが身を挺してエルサを助けたのは愛を授けようとする姿勢だと思う。キンキの歌じゃないけど、愛は探すものでも受け取るものでもなく与えるもの、というメッセージはこれまでで一番強く感じた。
エルサもエルサで「モンスター」と呼ばれる覚悟で氷の宮殿を出、ハンス王子とウェーゼルトンに囚われることを決めている。アナを、アレンデール王国の民を救うためなら命を落としてもいい、せめてその前にこの嵐を止めようとする若く健気な女王の姿は涙を誘う。
(運命づけられた王政でもない国家において自由意志で議員へ立候補しておきながらろくに仕事しようとすらしない現政権現与党への怒りが不意に沸いたことは忘れてやらない。せめて劇場でくらい現世を忘れさせてくれるレベルの政治をしてくれ。)
エルサの自己犠牲
エルサが民への献身から自らの命を投げ打つ覚悟をするのはひどく美しいが、それゆえの危うさもあると思う。エルサは子供の頃から魔法の力をコントロールするべく父親から抑圧されており、本来ケアされるべき立場にあるのに、王家という他者からの介入が難しい環境にいるせいで誰からも助けられず孤立する。
アナはエルサに関わろうとするが、エルサにはアナをケガさせてしまった引け目がある上、父親が亡くなったことでもはや呪いと化した言いつけを破ることはできなかっただろう。成人したとはいえ、誰とも関わらず必要なケアも受けないまま育ったエルサが「王国の皆のために」と決意をする姿には、美しさ以上の切なさを感じてしまう。エルサが王女でさえなければそんな辛い決意をさせずに済んだろうに…。
問答無用で権力の座につかせる王制という仕組みそのものに疑いの目は向けるべきと思うし天皇制も疑うべきよな、眞子さま*1どうかお幸せに、と思いを馳せた。
ハッピーエンドに王子様は不要
散々言われているけれど、王子様と結婚してめでたしめでたしではない、シスターフッドを描いているところが何よりいいなあと思う。しかも、王子様が登場しないのではなく、キラキラのまさに王子様然としたヤツをヒロインがグーパンして終わるのがなおいい。
そういえばトロールが「ちょっと臭いしかっこよくないけど、彼は最高!」とクリストフを称える歌も反ルッキズムだし、このあたりディズニーは進んでいる…というよりうまく時勢を読んでいてさすがである。なのに実写版ムーランはどうしてあんなことに。
ハンス王子、嫌なやつだなと思ってたけどアニメでなく俳優が演じているからなのか、「やり方汚いけど野心に溢れてて行動的でいいじゃん」と思ってしまった。ちょろいな~。
オラフ、日本に来られてよかったね!
パペットで出演するオラフがBW版からとても好きで、あまりのかわいさにどうしても目で追ってしまうのだけど、劇団四季版も変わらずキュートで最高でした。
しかもオラフ、カーテンコールでハッピ着て鉢巻巻いて出てきてくれて、あまりの嬉しさにちょっと泣いた。
作中でも「夏がだ~いすき!」と言って憚らないオラフが日本の夏を満喫してくれてる!!!まあ日本の大抵のお祭りは全部中止になっちゃってるんだけど、オラフもコロナ禍で大変だったろうね、上演できてよかったね…とよくわからない感情でぐるぐるしながら、でも嬉しくて泣いていた。東京が凍っていく上演発表時のこのPVが好きだったので、ここからの流れを感じたのかもしれない。
BWで見たときの感想ちょこっと。
BWでは、アナ役の俳優がブラックだったのが印象的…と、そう表現するのが適切かどうかは今も悩ましいと思っているのだけど、彼女が舞台上に現れたとき、ガツンと頭を殴られたようだった。アナを演じるのはホワイトだという偏見があったんだなと。そういうふうに思っていた自分の器の小ささにめちゃめちゃショックを受けながら、彼女の歌うDo you want to build a snowman?の素晴らしさに打ちのめされ滝のような涙を流したな、とそんなことを思い出した。また見に行きたいな。
*1:この敬称もどうなんだろうなと悩みながら遣っている